【souyamisaki014、登場!】
ここは砂箱学園。全国各地から集まった著者娘たちが切磋琢磨し、創作を学ぶ学校だ。
そして、著者娘にはそれぞれ担当編集となるサポーターがつくことになるのも、特徴の一つ。
そんなわけでこの学園に招かれた編集者として、ある1人の著者娘とパートナーシップを結ぼうと目をつけていたのだが……
souyamisaki「はい? 私が執筆? 無い無い(笑)」
モンデンキント、エトランゼ、エイリアン。個性が繚乱するこの学園においてさえそう呼ばれる金髪藍眼の少女。
souyamisaki014という名のその人物に物は試しと声をかけてみたものの、明らかに語尾に嘲笑の意図を含んだセリフで振られてしまったのだった。
souyamisaki「執筆なんてガラじゃないって。何だあいつ。私ァただのサッカー女子だぞ?」
souyamisaki「そういうのは文化系のオジョウサマ共に任せとけっての。さ、今日もペンより重いもの持てなさそうな軟弱者たちを尻目にアスリートの本分をまっとうするぞー」
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souyamisaki「日もだいぶ長くなってきたね……練習が終わってもまだ日が沈みきらないとは」
souyamisaki「………………」
souyamisaki「都会の一等地に学校なんて建ててんじゃねえよ……景観考えろボケ」
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souyamisaki「屋上ならどうよ……さて、見晴らしの方は──」
notyetDr「やっと来た」
souyamisaki「は? 誰?」
notyetDr「夕日、見ていきなよ……よく見えるよ」
souyamisaki「おいおい、私がそんな叙情的なことする女に見えるか? 見えるんだとしたらその眼鏡は度があってねえと思いますけど」
notyetDr「そんなことない。度数も問題ないし、校庭もよく見える」
souyamisaki「……何が言いたい?」
notyetDr「ふーん……気付いてないんだ。練習中によそ見してると案外目立つよ……気をつけて」
souyamisaki「あん?」
notyetDr「目立つと、私とか……そこの編集者みたいなのに目をつけられるから……さ」
souyamisaki「な……に?」
▷ 「やあ」
notyetDr。死と無の王、人を愛せし者、常夜の灯し手。いくつものコンテストで実績を残し、確かな実力と込められた祈りによって人を惹きつける著者娘。
彼女に呼び出されて向かった学園の屋上で、奇しくも彼女が予告した通りに現れたsouyamisaki014と居合わせた。
souyamisaki「はは、編集者さん、じゃん……どうも……」
引き攣った笑みを向ける彼女の向こうで、死と無の王が『あとは若い二人で』とばかりに校舎の中へ消えていった。
そう来るなら……
▷ 「きみに、見せたいものがある」
souyamisaki「おいおい、私は夕日見に来たんだけど?」
それでも損はさせない──そう強く言い切ると、
souyamisaki「ハハ、おもしれー大人」
souyamisaki014はそう笑って着いてきてくれた。
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souyamisaki「さっきのあのアマも創作を? ……へー、すごい人なんだ。そっかそっか……媚びへつらっておくべきだったかも……」
そんな事を話しながら向かった先は──
souyamisaki「掲示板? なに? 何かお知らせ? 私これでもユートーセーだから呼び出し食らうような心当たりないんだけど」
▷ 「そうじゃない」
暗くなり始めた外気の中、照明の当たる一枚の板──砂箱学園の中央掲示板。そこには、数多の記事の卵が批評受付中として掲示されている。
夥しく犇めく、これからこの世に生を受ける作品たち……souyamisaki014はその前で固まっていた。
souyamisaki「あれは……carbon13さん?」
そしていま新たに、掲示板の隅の方に1つ掲示が増えた。
carbon13、ちょうどsouyamisaki014と同期に当たる著者娘が、作品の卵を持ち寄り、こっそり隅の方に貼っつけていったのだ。
souyamisaki「……これ全部、ここの学生が?」
▷ 「その通り」
souyamisaki「そっか……」
照明が目に眩しいのか、瞳を細めてsouyamisaki014は掲示板を眺めていた。
この食いつき方なら、もう1つの方もきっと彼女に効くだろう。
掲示板の裏面に回る。
▷ 「見せたいものはまだあるんだ」
批評募集用掲示板と対を成す砂箱学園の名物、通称『嘆きの壁』。
学内で発表された作品は学園生たちによる相互評価の対象となり、そこで不出来と見なされた作品はここに貼り付けられて焼却処分の日を待つことになる。
──すなわち、この壁は学園生たちの努力、込められた思い、そういうものの墓場だ。
これを見て怖気づいてもいい。転がる先人の屍の山を諦める言い訳にしたって、誰も責めやしない。あの壁で孵化するのを待っている記事だって、どれだけがここに回されず生き残るか知れたものではない。
souyamisaki「あんた、編集者より政治家とかの方が向いてるんじゃない?」
そう伝えた途端、souyamisaki014の口の端が吊り上がった。
ケラケラと、彼女の髪色のように軽やかに笑い、
souyamisaki「体育会系のバカはね、煽られるとすぐキレるんだ。やってやろうじゃねえかよ、創作!」
上空に広がる夜空のような色の瞳をぎらつかせて啖呵を切った。
▷ 「そうこなくちゃ! これからよろしく!」
これから、souyamisaki014と二人三脚での生活が始まる!
《スキルptが120pt上がった!》
【Make Debut!~初めてのルーブルはなんてことなかったわ~】
▷ 「さて……」
souyamisaki014にはこれから創作を始めてもらわなければならない。
何事も立ち上がりが肝心だ。実を言えば多くの創作を志すものは、はじめての創作で挫折する。
彼女はどういうタイプだろう……。どこで何にどう躓くか、はじめて創作に手を付ける彼女をどうやって導いていくかを考えるために、それを見極めなければならない。
souyamisaki「できたよ」
▷ 「え?」
souyamisaki014「いや、なんか……言われたとおりにね? とりあえず1作書いてみたんだけど……スルッとできちゃった。案外簡単なんだね」
彼女はあまりにもあっけなく、処女作を生み出してみせたのだった。
手渡された原稿を読んでみる。
これは……
souyamisaki「体裁上の注意とかには従ったけど……おかしなところあったら言ってね?」
いや。
はじめての創作にしては、指摘するポイントが少ない。
これなら……
▷ 「投稿、してみない?」
souyamisaki「……そんなノリでしていいもんなの?」
次の目標は、学園内部への投稿だ!
《スキルptが40pt上がった!》
【投稿→低評価削除~お前が消えて喜ぶ者に~】
meshiochislash「また低評価削除だ……! クソ……!」
shionome4ono「こらー! 物に当たるなー!」
meshiochislash「当たらずにいられるか、これが! 畜生……!」
shionome4ono「わかったけど建物は大事に! また次頑張ればいいでしょ! エネルギーはそっちに回しなさい!」
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投稿された記事は、受け入れられないことのほうが多い。
故に、『嘆きの壁』の前では、こんなことは日常茶飯事だ。
さて、それでは我が担当著者souyamisaki014は……。
結果から言うと、彼女の投稿した記事も嘆きの壁送りだった。しかし……
souyamisaki「ま、そうなるよねー」
▷ 「悔しくない?」
souyamisaki「いやぁ、別に? 『なんか違うな』ってのはわかってたし」
はじめての創作が他人によって「つまらない」と断じられたにもかかわらず、彼女はご覧の通り、平坦なテンションだった。
異端者扱いは伊達ではないということか。
流石に少し面食らった。
souyamisaki「むしろ、やる気が湧いてきたよ。ここの人たちはちゃんと、つまらないものをつまらないって言ってくれるんだから。やってやろうじゃん?」
モンデンキント、職員室でそう呼ばれる少女はいたずらに笑いながらそう言った。
ばっちりウィンクを決めながらほざくsouyamisaki014に、この子は本当に何なんだろうなぁと辟易する。
souyamisaki「というわけで、次はどうする?」
まぁ……彼女のモチベーション如何はよくわからないが、しかし本人がやる気なようならよかった。
さて、次か……
▷ 「近いうちに、掌編のコンテストがある」
掌編。告知されているコンテストは1200字以内のtaleが出場要件だが、今回はそれを狙うのがいいかもしれない。
長い物語を書くのは労力も時間もかかるし、アイデア以外に構成力や読ませる努力も必要になってくる。対して、短いものはアイデア一本で成り立たせることができるし、短い分トライ&エラーもしやすい。
まだ初心者でとにかく挑戦と経験を重ねなければならない彼女にはピッタリだろう。
souyamisaki「了解! がんばっちゃうぞー」
そういうわけで、異端児っぷりに惑わされながらも、次の目標を掌編企画に定めたのだった!
《スキルptが40pt上がった!》
【掌編企画~乙女解剖であそぼうよ~】
掌編コンテスト企画は無事終了。閉会式と相成った。
souyamisaki014の書いた作品は入賞こそしなかったものの、かなりいい手応えを得ている。
souyamisaki「…………」
それにしては浮かない顔だが……なにか気になることでもあるのだろうか?
souyamisaki「いや別に……ちょっと一目惚れ」
それはちょっとではない気がするが……多感な年頃だし、そういうのもあるのだろう。そっとしておくことにしよう。
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souyamisaki「あの子どこにいるか知らない?」
shionome4ono「あー、どこだろうねー? 落ち込んでたみたいだし心配だよぅ」
meshiochi「屋上か校舎裏の方じゃねえかな」
souyamisaki014がそんなようなことを教室にいた著者娘たちに聞いて回っていた。
教室に、空いている席が1つ。souyamisaki014と同じく閉会・表彰式に出ていた著者娘が、まだ戻ってきていない。
──おおよそ、コンテストでの結果が本人として芳しくなかったのだろう。学内コンテストが終わる頃にはよくあることだ。栄誉を称えるだけでなく、一人で無力感を噛みしめるのもまた1つの表彰式の意義。ぜひ彼女には今しか味わえない感情をしっかり味わってほしい。それは、必ず財産になるはずだから。
EveningRose「でどうしたの? 何か用だった?」
souyamisaki「いや……落ち込んでそうだったから話でも聞きに行こうかなって」
EveningRose「待て待て待て待て」
meshiochi「あんたが行くのは絶対に悪手だろどう考えても! 人間関係初心者か?」
souyamisaki「ええ……?」
「駄目?」とでも言いたげな顔をしているsouyamisaki014を、周りの著者娘たちが説得しようとする。
Dr_kudo「misakiさんの担当さん! 担当さんも止めてあげてくださいよ!」
souyamisaki「……いやいいって。諦めたから」
珍しくしゅんとした顔で、殊勝にも制止を聞き入れたようだ。
叱られた子供みたいだな……がしかし。
▷ 「その携帯は何?」
souyamsiaki「……『今どんな気持ち?』って聞くだけなら最悪LINEでもいいかなって」
待て待て待て待て待て。
EveningRose「…………」
meshiochi「こいつ……」
souyamisaki「え? 何? 駄目? そっか……わかったよ、わかったって」
モンデンキント。その本領がいかんなく発揮されている……
▷ 「道徳の単位は足りているかな?」
souyamisaki「義務教育はフル単だったはずなんだけどな……むしろ気になることは積極的に質問しましょうって……」
時と場合と相手によるでしょうそれは……
その後の著者娘たちの説得の甲斐もあって、souyamisaki014はどうやらちょっかいをかけるのは諦めてくれたのだった。
《スキルptが52pt上がった!》
《やる気が下がった!》
【たまにはデート~手掛かりになるのは薄い月明かり~】
掌編企画からしばらく。
souyamisaki014は作品を書き続けている。しかし最近は主題から作風までどうにも迷走気味で、正直なところあまり順調とは言えない。
そんなある日のこと……
ukwhatn「どうしようね、あれ……shionomeさん旅館の娘なんでしょ? なんかこう、無い?」
shionome4ono「え、どうしよう……わかんないよぅ」
▷ 「どうしたの?」
shionome4ono「あっ! misakiさんの担当さん! あのね、misakiさんが体調悪そうなんだけど……」
Dr_kudo「声かけても『大丈夫』って言って取り合ってくれないんですよね……」
ああ……なるほど……。うちの担当著者娘にみな手を焼いているようだった。
モンデンキント、エトランゼ、エイリアン。浮いてる……かどうかはわからないが、対応が難しい類の人間であるのは確かだ。
ここは、担当編集の自分が対処するべきだろう。「任せて」と伝えて、souyamisaki014のもとへ向かった。
souyamisaki「あぁ、編集さん……」
机に突っ伏していたsouyamisaki014は、こちらの姿を認めてただ短くそう言ってから、再び目を閉じた。
元々運動部に籍を置いていただけあって、健康優良児、丈夫が自慢の元気っ子という印象の少女だったのだが、周りの心配通りそれにもどうやら翳りがみられる。金髪は艶を失っているし、顔色も悪い。おまけに心なしかやつれているようにも見えた。
▷ 「保健室、行こうか」
souyamisaki「え、マジ……授業サボっていいの……やりぃ」
周りにもその旨を伝え、souyamisaki014をおぶる。
サボりではない。正当な休息だろう。著者娘と言えど体が資本であることに代わりはない。体調が悪ければきちんと休むべきなのだ。
それは体育会系の彼女こそよく知っていると思うのだが……
souyamisaki「いや……私風邪とか引かないし……」
そこら辺の文科系とは違うとばかりの言い分を、かすれた声で呟いた。
威勢のよさは変わらないようでそこは一安心だが、体調不良時くらい少しは素直になるものだろうに。可愛げがない。
しかし、じゃあそんな健康優良著者娘がどうした?
souyamisaki「ここんとこ連日……夜なべして執筆をね、してたんだけど……寝不足がたたったっぽい……サッカーやめちゃってから無理が効かなくなってさ……」
背中から、かろうじて聞こえるかというような声が途切れ途切れに返ってくる。
著者娘は確かに夜型が多いが、souyamisaki014もそうらしい。それで夜を徹して執筆に励んだ結果、体調を崩したということなのだろう。
souyamisaki「揺り戻しみたいなものかもね……いや、著者娘は普通こうなのかも知んないけど……そりゃペンより重いもの持てなくなるわけだ……ハハ、私、虚弱児! アハハ……」
保健室着いたぞ──いつものsouyamisaki014節には耳を貸さず、そう告げた。
ゆっくりと彼女をベットに寝かす。
souyamisaki「私こういうのちょっと憧れてたんだよねー……怪我の功名だぁ」
言ってる場合か──大人しく寝て体調を戻せと伝える。
なぜか嬉しそうなsouyamisaki014は、しかし言葉とは裏腹にしっかりと布団の中で大人しくしていた。
souyamisaki「そうだねぇ……執筆に差し障ると良くないもんね……」
最近上手くいっていない執筆のことを思い出してか、弱弱しい笑顔が曇る。
……根を詰めるにも限度というものがある。少し創作と距離を置くことを覚える頃合いかもしれない。
▷ 「今日はゆっくり休んで、明日は一緒に出掛けよう」
たまには、息抜きも必要だ。
翌日、放課後。
souyamisaki「ふふ、デートだね。どこ連れてってくれるのかな?」
一日寝倒して復活したsouyamisaki014は、すっかり元気になって待ち合わせ場所に現れた。
遅刻しておいてこの言い草なのは、まぁ目をつむっておくとして……
▷ 「映画に行こう」
何も単に気晴らしのためだけのお出かけというわけでもない。
2時間前後の限られた時間で鑑賞者を惹きつけ楽しませることを徹底して追求する映画というエンタメは、執筆においても見習うべきところが多い。まだまだ駆け出しのsouyamisaki014にとってもいい勉強になるだろう、そう見越しての提案だった。
souyamisaki「映画? いいね、デートっぽくて。ところで私映画館処女なんだけど……ドレスコードとか無いよね?」
そんな映画館があってたまるか。
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souyamisaki「うわ凄い! 床が無駄にフカフカして落ち着かない!」
souyamisaki「これが噂に聞く映画館のポップコーン? えっチュロスもあるの!? レジャーランドじゃん」
souyamisaki「ねねね、見て、スポイラー沢山もらっちゃった。アハ、紙資源の無駄遣いって贅沢な感じがするよね」
はしゃぐ彼女をほどほどになだめつつ、立ち並ぶポスターを一通り流し見る。
ふむ……
▷ 「何見たい?」
チケットを買わなきゃならないのもあるが、それを置いておいても純粋に気になる……
彼女は何に興味を示すのだろう。
souyamisaki「うーん……」
そんなsouyamisaki014はしばらく考えた後、
souyamisaki「あれ」
そう言って、一枚のポスターを指し示した。
▷ 「……特撮ヒーロー?」
日曜日の朝に放送している、いつの時代も子供、そして時には親をも魅了してやまない大人気ご長寿特撮シリーズ。平成世代のそれを締めくくる記念碑的な映画作品に、souyamisaki014は興味を示した。
souyamisaki「……駄目?」
いや、駄目ではない。むしろ好きだ。しかし意外だった。
souyamisaki「だって他のやつ全然わかんないんだもん……」
映画に興味ないんだったね……
チケットを買って、入場する。
さあ、どんな作品が見られるのだろうか。
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souyamisaki「…………」
とてつもなく良かった。お子様向けというより、むしろかつてテレビの前に座る子供だった大人たちにこそ響く、そんな作品だった。『仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』という作品なのだが、今もAmazonPrimeでレンタルできるので良ければ見てほしい。
さしものsouyamisaki014も感動したのか、隣の席からすすり泣く音が聞こえてきた気もしたけれど、それは黙っておいてあげよう。……こちらも目尻が赤いのを煽り返されるかもしれないから。
2人して余韻に浸りながら映画館から出ると、日は沈み切って、月明かりが差していた。
▷ 「何か、得るものはあった?」
souyamisaki「あのね編集さん。思い出したよ、私、なりたいものがあったんだ」
都会の絢爛な光に霞む月を探すように、souyamisaki014は藍色の目で空を見上げていた。
金髪に薄い月明かりを受けながら、穏やかな笑みを浮かべる様は、悔しいが絵になりそうだ。
……デートは、大成功ということで良いだろう。
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次の日からsouyamisaki014が腰に変身ベルトを巻いて登校するようになったのは、この件とは関係ないと思いたい。
《スキルptが54pt上がった!》
《やる気が上昇した!》
《コンディション「変身ベルト装備」になった!》
【H.E.R.オペレーション~今、始まりの君へ~】
souyamisaki「お待たせ」
──あれから半月。souyamisaki014は、あの日得たものを形にすることに成功したようだった。
▷ 「これは……」
さまよい歩く青年と、「ヒーロー」の名を冠した人々の記録。
彼女がここまで歩いてきた道のりのとりあえずのまとめとして作成することになる著者ぺージ、そこに載せるある種象徴的なデータ。
その題材として、彼女はヒーローを選んだ。
souyamisaki「主題は見つけた。だから後は、私なりの方法を見つけるだけだよね?」
そうだ。そして、彼女はとにかく手を動かすことができる類の創作者だ。メソッドは後からいくらでもついてくるだろう。
畢竟──モンデンキントは今ここに覚醒した。制服の下にこっそり装着した変身ベルトは伊達ではない。蛹が蝶になるように、改造人間が仮面ライダーに変身するように、モンデンキントはヒーローの語り手へと、なった。
souyamisaki「そうと決まったら、早速やるしかないよね。まぁ躾のなってないガキみたいにワクワクしながら待ってなよ、souyamisakiちゃんの華麗なるヒーローショーを!」
Taga49「これ……すごい」
SuamaX「見ましたかUeh-sさん! 私たちの人事がこんな素敵なtaleに……!」
Ueh-s「もうボクは何も言えません……」
notyetDr「やるじゃん」
そして、souyamisaki014は書き上げた。
学内にひっそりと投稿されたヒーローの物語は、一部の著者娘たちから確実な反響を得ていた。
souyamisaki「うんうん」
souyamisaki014はそれを見てよしとした。
▷ 「もっと貪欲に感想を求めてもいいんだよ?」
souyamisaki「え? いや、いいよ。これくらいで十分。私は、私の書きたいものを書くだけだから……それ以上のことは、特には」
妙なところでしおらしい奴だが、本人がいいと言うならいいのだろう。
もっとも、本人以外がそれで納得するかというと──
Dr_kudo「えいち、いー、あーる、おぺれーしょん……」
meshiochi「souyamisaki……」
それはまた、別の話になりそうだが。
《スキルptが54pt上がった!》
《スキル「星の属性」のヒントLvが上がった》
【チームコンテスト、開催~超天変地異みたいな狂騒~】
嵐は、突然巻き起こる。
教室で著者娘たちが思い思いに過ごしていると、前の扉をけ破り、時計の髪飾りと黒髪ピンクメッシュの快活系女子meshiochislashが飛び込んで来た。
meshiochi「おまえら!聞けぇ!!」
そのままの勢いで教卓に飛び乗り、今刷ってきたばかりであろう大判のポスターを広げて見せる。
meshiochi「チームコンテストの開催だ!おれが主催!!参加よろしく!!!」
コンテストと聞いて、著者娘たちの目の色が変わる。
「ついにやるのかチームコンテスト!」
「いつかやると噂されていたあの!?」
「いいからレギュを出せ、無能か?」
「チームの人数は!?」
「taleのみでも、いい?」
早くも食いつく者たちが現れ、
「え? なに?」
「怖いよう……」
「あー、そういうのはいいや」
「私ボッチだし……」
同時に教室の隅で固まる娘たちもいた。
souyamisaki「へー、楽しそうじゃん」
さて我が担当娘はというと、その中間。興味は示しつつも我関せずな態度を示していた。
「出ないの?」と尋ねると──
souyamisaki「んー、今んとこ自主的に参加する気は……。勝負事って私苦手なの」
かわいこぶりやがったなこいつ……。
語尾に何らかの効果音がつくであろう語調でそう言ってのけたsouyamisaki014の視線は、しかし確かに騒ぐ著者娘たちの方に注がれている。
shionome4ono「こらー! 何してるんですか! ドア壊したの誰!」
meshiochi「げぇっ委員長!」
shionome4ono「委員長じゃないよう! どっちかって言うと若女将なんだよう!」
乱入してきた委員長、もとい女将、shionome4onoの一喝によりmeshiochislashがもたらした波乱はひとまず収まり、著者娘たちはそれぞれ思い思いの方向に散っていった。
notyetDr「ふぅん……」
そして、なにを考えているのかわからないsouyamisaki014と同じく、死と無の王も何やら考え事をしているようだ──。
【チムコン出ないの?~WAになって踊ろう~】
notyetDr「わたしたち『永久欠番四天王』、よろしく」
チムコン開催発表から数日、死と無の王が動いた。
大型新人と大物著者娘、そして2冠の王から成るチーム「永久欠番四天王」の結成は、学内に大きな波紋を呼んでいる。
souyamisaki「厨パじゃねえかあんなん!」
これにはsouyamisaki014も苦笑いを浮かべるしかないようだ……もっとも、この子にとっては他人事だ。すぐに「アハハ、このコンテストやべー」と、愉快気にケラケラ笑い飛ばした。
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indonootoko「そう来たらこう出るしかねえよなぁ!チーム『はぐれメタル×4』、出場するぜ!」
islands「若干出遅れた気はしますが、『お肉万歳』もドリームチームを揃えました。戦場で会いましょう!」
四天王の出現に勢いづいたのか、大物著者娘たちがそれぞれチームを結成し、出場を表明していく。
「執筆サイボーグのstenganなんてどこで捕まえてきたんだ!?」「お肉のメンツが肉厚すぎる!」「こわ、何? このコンテスト」
souyamisaki「おいおい、厨パ祭りもいい加減にしろよ」
斜に構えたこの娘は、しかし観客を気取っていられなくなることを、まだ知らない。
souyamisaki「別に愛とか籠ってなくてもご飯は美味しいねぇ」
狂騒の間にも日常は続く。souyamisaki014は、いつも通り1人屋上でコンビニのパンを食んでいた。
meshiochi「お嬢さん今一人?」
souyamisaki「……ナンパ?」
meshiochi「ナンパ」
しかし狂騒の日々にあっては、「いつも通り」も変容せざるを得ないようだが。
meshiochi「チムコンに出る予定はありますか?」
souyamisaki「無いけど」
meshiochi「……よければ、おれと組んでチムコンに出てくれませんか」
souyamisaki「へ?」
meshiochislash──「筐体造り」というカノンを引っ提げて登場した大型新人。稀代のいたずらっ子とさえ呼ばれる彼女が、souyamisaki014に首を垂れていた。
ナンパとは名ばかりの、体当たり勧誘。不敵な態度の裏に滲む実直さこそ、彼女を仕掛け人たらしめる人徳の源泉。
souyamisaiki「……私でいいの?」
meshiochi「おまえだから声をかけた」
souyamisaki「大丈夫? 眼科行く? 見る目は確か?」
mehiochi「そっちこそ耳鼻科がご入用と見えるぜ。健康診断受けたか?」
おお……口が悪い。褒められたことではないが、もしかしたら2人は似た者同士なのかもしれない。
応酬を聴きながら、「この子たちが組むのはありかもな」と、そんなことを考えていた。
souyamisaki「……でも、なんで」
meshiochi「諦めないこと。その先の光を掴むこと。あんたがずっと書き続けてきたことだろ……めげない姿を見てた。おまえのことが、おれは好きだ」
souyamisaki「ハハ、わかった、きみも気狂いの類だね?」
meshiochi「そしてあんたもだ」
souyamisaki「相違ない。わかったよ。求められるなら応えるさ。それがヒーローだろ?」
手が結ばれる。新しいチームの誕生は近い。
meshiochi「主催者だからって参戦しちゃいけないって決まりはねえよなぁ!いくぜsouyamisaki!」
souyamisaki「ハハ、惨敗して閉会スピーチで泣く羽目にならないといいね主催者サマ?」
0v0_0v0「私にチームリーダー押し付けといて何であんなに偉そうなんだろう……」
aisurakuto「よくわからない奴らですが頑張ります」
そして、追加で2人のメンバーを迎え、souyamisaki014たちのチーム「m^4」は戦場へと名乗り出た。
SuamaX「souyamisakiさんも出るんですか? 私たちも出るんですよ」
Ueh-s「借りは返しますよ! ボクたち『地を這ううどん妖怪教』と勝負です!」
carbon13「同期たちが出るっていうのに、黙って座ってるわけにはいきませんよね。『歴史文化同好会』、出ます。ついに正面からやりあう時が来ましたね」
souyamisaki014と縁深い著者娘たちも、次々と名乗りを上げる。
そして……
Dr_kudo「──souyamisakiさん。これ、見てください」
souyamisaki「……?」
Dr_kudo「あなたのヒーローのtaleです。私たち『幻覚畑』は、これでチームコンテストに出ます」
Taga49「あの……ファンです! なので、楽しみにしててくださいね! 私たちの"お祭り"!」
『幻覚畑』の刺客たちの告白に、souyamisaki014は目を丸くする。
おずおずと受け取った原稿を抱えながら、
souyamisaki「わざわざ宣戦布告しに来て負けたらめちゃくちゃダサいよ?(笑)」
いつもの悪態を吐いてみせるのだった。
そんなこんなで、m^4の一員として、souyamisaki014のチームコンテストが始動した!
【チムコンの後に~アイムアルーザー~】
総勢106名が参加したチームコンテストは、激動の内に幕を閉じた。
主催であるmeshiochislashの口から最終結果が発表されて、饗宴の日々は本格的におしまいとなるだろう。
meshiochi「第三位!『ちっちゃいものクラブ』!」
meshiochi「第二位は異例の同率準優勝!『はぐれメタル』と『もうひとりいる』!」
meshiochi「そして優勝は……『MMMR』だぁ!」
歓声が弾ける。
かくして、レースは決した。
祝福の輪に囲まれる入賞者たちを見て、各々のチームもみな和やかに感想などを言い合っている。
meshiochi「ちょっと待ておまえら!まだ大事な発表は終わってないぜ!まずは一騎当千部門!MMMRの視怪啓雲だ!」
主催であり、souyamisaki014のチームメイトでもあった著者娘が総括の言葉を述べていく。
盛り上がったことへの感謝、「タグ新設」というお題の振り返り。各チームの健闘を称える言葉。そして。
mehsiochi「今回のコンテストにはMVP部門がある」
meshiochi「選出の上で、俺たち運営が重視したのは独創性だ。より革新的で、衝撃的で、個性的な挑戦こそ、『タグ新設』という野望めいた挑戦に必要で、先駆者達が踏み固めたアイデアのアウトバーンを踏み進む新時代の学園に必要なものだとおれたちは考えた」
meshiochi「これを考慮して、運営がMVPに選んだのは──幻覚畑!おめでとう!!」
会場は、音の波に呑まれた。
そんな中我らがsouyamsaiki014は……
souyamisaki「次は絶対テッペン取るからな……ウチより上の順位の奴らは見てろよ!」
吠え面をかいていた。
彼女たちのチーム「m^4」は、順位としては6位に落ち着いていた。
もっとも、彼女だけでなくaisurakuto、0v0_0v0、meshiochislashたちの奮闘によって、チーム「ガレノスの徒」や「サツバツ!」、「お肉万歳」たちと熾烈な4位争いを繰り広げる好レースを演じた経緯は、評価されて然るべきだと思う。
そんなこんなで、友情と努力、勝利……には一歩届かなかったが、souyamsaki014にとってのチームコンテストは、確実な進歩を証明するものとなった。
宴の後も、騒がしい日々は続く。
Dr_kudo「どうですかmisakiさん、これが私たちの納涼祭ですよ」
souyamisaki「やってくれたなぁ幻覚畑!? もうズルじゃんこんなの!? はぁ? ちょっと言語化させて……」
Dr_kudo「やりましたよTagaさん! souyamisakiさんを仕留めました!」
Taga49「そうですねぇ、いえーい!」
チームコンテスト出場作品の続編を渡されては、感動で言語野が機能を停止したり
souyamisaki「四天王は早く続編を出せよ、ほら早く!」
EveningRose「そうだそうだ!」
notyetDr「vetmanに言って」
v_vetman「頑張ります……」
出場作の続編を待望したり
souyamisaki「carbonさんの作品めちゃくちゃ面白いじゃん……なんでこれこんなに評価低いの? 長いから?」
carbon13「貴方にそう言ってもらえて、よかった」
最終日に怒涛の勢いで投稿された作品群を消化したりと、忙しなくそれでいて充実した日々を過ごしていたのだった。
souyamisaki「…………」
それでも時々遠くを見ているのは、彼女の元々の癖なのか、それとも──
《スキルptが52pt上がった!》
【答え合わせ~始めようか、天体観測~】
チームコンテストの後にも1つコンテストが開催されたが、それは見送り、その次に開催されるという1998年カノン限定のコンテストにとりあえずの目標を定めることになった。
souyamisaki014と一緒に計画を練りながら、彼女に執筆を任せていたある日のこと。
EveningRose「……misakiさんの姿が見えないんだけども」
Taga49「そういえば、いませんね」
Dr_kudo「誰か何か聞いてませんか?」
答える者はいない──担当編集や、職員室にも連絡は来ていない。
souyamisaki014が失踪した。
その事実に教室が少しざわめくも、
shionome4ono「あの! ちょっとだけ、待ってもらっていい? もしかしたらなんだけどね……」
どうやら心当たりのある娘がいるようだ。
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▷ 「温泉旅館?」
shionome4ono「皆様ようこそ我が旅館へ! いらっしゃいませっ!」
Dr_kudo「チムコン以来ですね!」
Taga49「あの時はお世話になりました」
shionome4ono「いえ~、今後ともぜひご贔屓に!」
▷ 「で、あれがうちの担当著者娘か」
souyamisaki「なんでいるんスかねぇみなさん……」
学園からそう遠くない観光地に立つ一軒の旅館。
「うちの実家の旅館に学園生が来てるらしいんですけど、もしかしたら……」ということで足を運んだshionome4onoの実家であるその日本式宿泊施設に、果たしてsouyamisaki014はいた。
shionome4ono「もー、こんなところで何してるんですか? 急にいなくなるからみんな心配したんですよぅ」
souyamisaki「いや、別に……」
EveningRose「ここねぇ、shionomeさんのご実家なんだって。私たちは結構お世話になってるんだけど」
notyetDr「運が悪かったね」
souyamisaki「そういうことか……はぁ、どうして私はこう……」
meshiochi「いやぁ、おれは放っておいても大丈夫だろって言ったんだけどね? こいつら楽しそうだしって言って聞かねえの……おっ卓球あんじゃん、やろうぜ」
Dr_kudo「あ! みなさん、お寿司の差し入れもありますよ!」
▷ 「……災難だね」
souyamsaiki「いや……まぁ、いいよ……慣れたし……」
あっという間に取り囲まれてしまったsouyamisaki014に少しだけ同情するが、そもそもは彼女が悪いのだ。存分に、引っかき回されてもらおう。
meshiochi「行くぞsouyamisaki!二人で打倒islandsmasterだ!」
islands「それはズルくないですか!?」
kurono「ukさんは私と組もうね!」
ukwhatn「しょうがないですねぇ」
Taga49「ガルル……2meterscale……コロス……」
2metersclae「おおこわいこわい」
卓球台を囲んで少女たちが騒いでいる。
友達が多いようで、何よりだ。
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meshiochi「枕投げだー!」
ukwhatn「お-!」
shionome4ono「こらー!夜遅いんだから寝なさーい!」
meshiochi「げっ女将だ!」
souyamisaki「ギャハハ! 集中砲火して沈めろー!」
shionome4ono「いったーい!? もう! 怒ったからね!」
stengan774「女将が怒りましたねぇ」
meshiochi「わはは! 捕まえてみろよ女将ィ!」
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夜は更けた。騒いでいたみんなも大人しく床についているようだ。
そろそろ頃合いか……souyamisaki014と話をするべきだろう。
▷ 「あれ、いない?」
部屋に、souyamisaki014の姿は無い。
またぞろ逃げだしたのか……? 困った娘だ。
さてどこにいるだろう、と探そうとしたとき
notyetDr「ん」
notyetDrが、袖を引いてある方向を指し示した。
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▷ 「こんな場所があったんだね」
旅館の最上階、屋外テラス。
温泉街の夜景と夜空を拝めるスポットに、souyamisaki014はいた。
souyamisaki「あなたより1日早くチェックインしてるんでね。一日の長があるわけ」
失踪していたなりに、観光を楽しんでいたらしい。とりあえず心身に問題は無いようで良かった。
notyetDr「わたしは知ってたけど」
souyamisaki「……そう」
notyetDrがsouyamisaki014に近寄っていくのに合わせて、2人の間に腰掛けた。
souyamisaki「随分夜更かしさんですね? いい大人が旅行ではしゃいでるんですか?」
編集者には編集者で付き合いというものがあるのだ……というのを、彼女たちに説明する必要はないだろう。
話すべきことは、他にある。
▷ 「どうして1人でこんなところに?」
落ち着いたところで、改めて真意を問いただす。
どうして急に、誰にも知らせずこんな遠い場所まで来たのだろう?
souyamisaki「私は……みんなとは違うから」
膝を抱えながら、souyamisaki014はうつむきがちにそう零した。
notyetDr「……」
souyamisaki「『m^4』に誘われた時、私でも役に立てるかなって思ったんだけど……駄目だった。今でも考えるんだよ、私じゃない他の著者娘がいたならあのチームは4位に……あるいは、入賞だってできたんじゃないかって」
ああ、なるほど……
どうやら、チームコンストでの顛末を気に病んでいるらしい。
souyamisaki「98コン、carbonさんの記事の続編で出ようと思うんだけどね……」
とりとめもなく話すのを、 notyetDrと二人で聞く……notyetDrは元々口数が多くないから、別に本人として聞き手に回っている自覚は無いのかもしれないけど。
souyamisaki「あの人がね、同期でよかったと思うんだ。あの人が頑張ってるのを見ると、私も負けてらんないなって、何度思ったか」
あの人もそう思ってくれてるといいんだけど。そう小さく笑って空を仰ぐ。
奇しくも満月が頭上で輝いていた。1等星も小さく光っている。目を凝らせば、もう少し星が見えるかもしれない。
souyamisaki「私のやり方で、あの人に届くかな。あの人が同期でよかった……よかったんだけど、私は、あの人に並ぶに足るのかな」
souyamisaki「私は、あの人たちみたいになりたい。いつかちゃんと、自信を持って著者娘をできるようになったらって、思ってたんだけど……でも、みんな仲良くしてくれるから、それでもいいやって、なっちゃった」
souyamisaki「でも私は私のやり方しかできなくて、だから、距離を置かなきゃいけなかったのに……着いてきてくれやがってさぁ。旅行の計画が台無しじゃん」
ゆっくりと、訥々と言葉を繋げていく。
souyamisaki「……近いようで遠い、よくわかんないね、星は」
▷ 「なんだ、気付いてなかったんだ」
souyamisaki「へ?」
風が吹いて、金色の髪が揺れる。
彼女はどうやら、自分のあり方に自覚というものがないらしい。
モンデンキント、エトランゼ、エイリアン。そう呼ばれる彼女だが、1年の付き合いを通してわかってきたことがある。多分、『異邦人』より『迷子』と言う方が近いのだろう。現在地を見失った迷子……なるほど、そう思うと可愛くも見えてくる。
notyetDr「……同じ方、見てたけど」
何を隠そうsouyamisaki014を見出したのは、夕日を見る趣味のあったnotyetDrに付き合っていたときのことだ。
暗くなっていく空の中、日の沈んでいく方向を睨んでいた著者娘を、オレンジの光を放っていた金髪を、かつての担当著者娘notyetDrと屋上から見ていた。
だから知っている。
夕日を見るのが好きな著者娘と同じに、いつも夕日を見ている著者娘がいたことを。
だからその子に声をかけた。
そしてそれは正しかった。notyetDrたちと同じように、彼女は物語を創り始めた。
▷ 「きみは初めから、光っていたよ」
何のことはない。彼女は初めから創作者だった。物語を創り始める前から、彼女は『著者娘』だったのだ。
あっけなく処女作を書き上げてみせたのも、その証左。
そんな簡単なことに無自覚だったとは。全く世話の焼ける著者娘だ。
souyamisaki「そっか……。そっか……!」
そう言って細められた夜空と同じ色の瞳は、少し潤んでいるように見えた。
《スキル「Hero, all that glitters」のレベルが上がった!》
《育成終了!お疲れさまでした!》