【同期トーク/After Waltz/会談燦然共晶98!白い著者娘と本質的ラブ?~エイリアンエイリアン~】
carbon13「どうやら私たちはあまりにも自分勝手がすぎるようです」
souyamisaki「たはっ。リードライターがそれを言う?」
砂箱学園、屋上。街は飴色に染まる──放課後、日没。
我が担当著者娘souyamisaki014が日々通い詰め尊大にも占有しかけているそのスポットに、客人が1人。
1998年の狂騒、その立ち上げに関わった著者娘の1人・carbon13──白い黒檀、実験的セオリスト、金剛意思。そんな名前で呼ばれるsouyamisaki014とは同期に当たる銀髪赤眼の少女が、souyamisaki014となにやら語らっていた。
carbon13「だからこそとも言えます。1998年の世界は今や数多くの著者娘の手によって爆発的な拡大を繰り返しています──Dr_Kasugaiはともかく、islandsmasterでさえもはや手がつけられない。同じ世界を見て生まれたはずの物語たちはしかしながら全く違う色と形をして存在していて、それを再統合する自信も意思も私には無いんです」
souyamisaki「クオリアってやつじゃないの? 私たちのハードとしての個性はそれぞれの認知機能さえ異なるものにする」
carbon13「それですよ、souyamisakiちゃん。あなたの青い目と私のこの目が色光を同一の条件で受容することが不可能なのは生物学的事実でしょう。身長も違いますしね? そして私たち著者娘の至上命題である創作は、根本的に個人の個性──別個性に依拠します。個性なき営みを、私たちは受容しない。文化の非社会性とでも言うべき……私たちはエコーチェンバーの内側からしか『これ』を見いだせない」
souyamisaki「carbonちゃん目赤かったっけ。私ぁコミュ障なもんで……人の目が見れなくてさ」
souyamisaki014の金髪は、夕日を受けてオレンジ色に輝いている。carbon13の銀髪が返す反射光とはスペクトルが異なる──彼女の碧眼が見つめる方向もまた、薄ら笑いを浮かべながら頬をかく姿に注がれるcabon13の視線とはかち合わない。
離れた場所から見ていると、その姿は彼女たちの話している通り歪にも見える。
carbon13「ときどきだけど、私たちの間にある繋がりと呼ぶべきものがとても頼りなく感じられるんです」
souyamisaki「ふぅん、思春期?」
長くなった話をまとめるように言ったcarbon13の話を、souyamisaki014が茶化して続けるように促した。……つもりなんだろうと思う。
carbon13「つまるところ私たちのコミュニケーションは空虚なのではないかという話なんですよ」
souyamisaki「ま、否定はしないね……私たちは、物語を作る能力に依存している」
言い放ったsouyamisaki014をただ黙って見つめることで続きを促すcarbon13に、その視線を受けた横顔がかゆいのか頬をかきながら「つまりね」と前置いて答える。
souyamisaki「一行の真実のために一冊本を書くのが小説家らしいけど、それなんだ。私たちはほんの少しの何かさえ、形にしないと伝えることができない。逆説的に、私たちが日々交わす言葉は、私たちの作品の何百分の一にさえ届かない」
carbon13「つまりクラ交換のような……逆に言えば私たちを結びつけるものはそれだけですね」
souyamisaki「へぇ。弱気じゃん」
どこか力なく笑ったような銀髪の少女に、金髪の女がニヤリと意地悪そうに笑ってそう言った。
そういうところがコミュニケーションが空虚だとか言われているのではとも思わなくはないが、しかしそれが彼女なりのコミュニケーションなのだろう。空虚なコミュニケーションならば何を言ってもいいってわけでもないとは思うけれど。
carbon13「私の言葉が、私たちの関係が、果たしてこの学園においてどれだけの意味を持つのか、と少しは考えもします。あまりにも上滑りしているように思うので」
souyamisaki「……意外だね」
まぁ、実際、著者娘同士のコミュニケーションは結局のところ空虚なのではというその懸念は、そこそこの年月この学園で編集者として彼女たちを見守ってきた身としても思い当たる節がある。
とはいっても、ことさら彼女たち──souyamisaki014とcarbon13となると、話はまた別か。
モンデンキント、エイリアン、エトランゼ。そう呼ばれるsouyamisaki014もそうだが、carbon13もかなり『自分勝手』している著者娘だ。独自路線を邁進する姿がsouyamisaki014に火を着けたこともある彼女だが、彼女にもそういった物事を気にする神経があるとは意外に思える。……が、その彼女が言うからこそというところも無いでは、無い。
souyamisaki「でも、私は『あれ』を書いた」
そしてこの反論が成り立つのも、souyamisaki014が言うからこそ。
──『日奉一族連続殺人事件/毒蛇、毒草、毒ノ花』。
souyamisaki014が98コンの折に投げつけたそのTaleは、carbon13の記事群・白枝三部作に触発され、そしてその二次創作として描かれたものだ。
souyamisaki「そうやって生まれる繋がりだって、多分あるんだよ。宇宙は際限なく広がっていくけれど、星々は有秩序的に網をなす。たとえそれがわずかでも、私は、この純情が伝わっていれば、それをお星さまみたいって思うんだ。私たちがどうしようもなく読んだり書いたりするのは、だからなんだと思う」
carbon13「……そうですね」
暮れ始めた空の、紫の部分。一番星のうっすらとした光が、夕日の色とは対象に真っ白だ。
carbon13「だからこれは、私からのラブレターです。souyamisakiちゃん。受け取ってください」
souyamisaki「……へ?」
carbon13が厚手の外套に隠していた原稿の束を、souyamisaki014に投げつけた。
自分も、端末で『それ』を確認する。
carbon13「今日はそれを渡しに来たんです。後でじっくり読んでください」
souyamisaki「これって……」
──『他要素共生社会の工場見学』。
後で知ることになるのだが、この会話の直前に投稿されたそのTaleは、日奉一族連続殺人事件を受けて書かれたものだった。
carbon13「souyamisakiちゃん、愛してますよ──なんて。お話できてよかったです。それでは、また」
souyamisaki「えっ……いや、えっと」
『ラブレター』と称したその生原稿をsouyamisaki014に押し付けて、carbon13は去っていく。
碧眼が、その背を見つめている。
▷ 「それで、きみはいいの?」
Dr_Kudo「あっ!? えっと……」
そして、carbon13は彼女とすれ違う。二人を窺うように屋内で待機していた著者娘──Dr_Kudoに、君も何か用があったのじゃないかと声をかけた。
二人に意識を持っていかれていたのか、Dr_Kudoは驚いたようにそう声を上げた。
Dr_Kudo「ボクは……いや、えっと、いいです!」
▷ 「あらら」
驚かせてしまったか。とすれば悪いことをした。とかく著者娘は扱いが難しい。
とまれかくまれ、これがsouyamisaki014の作った物語に対するこの学園の解答だった。
彼女の戦いの軌跡に祝福があってくれることを、その目撃者として嬉しく思う。
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【連続で視聴できるストーリーがあります。再生しますか?】
【文体シャッフル~優しさの理由~】
「どいつもこいつもわっかりにく!」「個性があるのかないのかはっきりしてほしい」「わかるわけないだろうがこの文字数で」
文体当てゲーム──という余興がある。文体人狼と呼ばれたり、この砂箱学園では文体シャッフル企画と称されたりと呼び方は様々だが、文章媒体で創作をする者たちがそれぞれ作者を隠して文章を寄稿し、その文体からそれぞれの作者を当てるというものだ。
meshiochi「ふっふっふ、さぁ苦しめ苦しめ」
それを砂箱学園屈指のいたずらっ子・meshiochislashが企画してみせ、ご覧の通り様々な著者娘たちが参加し苦戦している。
souyamisaki014と、それから彼女と縁深い、旅館と呼ばれる憩いの場によく集るメンツも多数参加し同じく怨嗟の声を上げている。
「ははーん、このゲームの本質は文体じゃなくて作風だね?」「駄目、作風偽装してる輩ばっかじゃないの」
そして、そのsouyamisaki014たちが本質を見出した──が、それでもまた行き詰まる。
「なんか擬態する気ないやつがいますが……」「モロバレの寿司んちゅがいるねぇ、こいつはもらった」
……かのように見せかけて、そうでもないみたいだ。
▷ 「寿司んちゅねぇ……」
meshiochi「タイムアーップ!」
そうこうしているうちに時間切れらしい。「集計するから待ってね!」と主催が宣言し、各々が感想戦を始める。
▷ 「出来はどう?」
souyamisaki「いやぁ、さすがの私と言えどもちょ~っとばかしムズかったかな」
souyamisaki014に自信の程を尋ねると、そんなふうにヘラヘラとした答えが帰ってきた。
これは……自信あるときのやつか無いときのやつかどっちだ……?
meshiochi「オーケー! さぁ答え合わせだぜ愚蒙ども!」
「騙されたっ──!?」「あの寿司あいつじゃないのかよ!?」「ああやっぱあれあの人だったんだ」「うわぁー外れた!」
Dr_Kudo「…………」
「寿司」というワードが上がるたびに参加者たち視線が向く先──Dr_Kudoを見る。
Dr_Kudo。スシ果て、酢飯浸かり、異聞の伝え手。「爆天ニギリ スシブレード:異聞伝」というホビーアニメ1クール分を書き綴ったtaleを引っさげて現われたことからそう呼ばれる著者娘。「寿司」と言われれば真っ先に彼女を連想するのが普通だろう。
その彼女は、なんとも言えない表情で佇んでいた。
notyetDr「その寿司、わたし」
souyamisaki「あんたかよ!? くそ……そうだよなあんたはそういうことするよな……」
おっと。われわれがDr_Kudoについて語るときは、彼女のことも抜かしては話にならない。
notyetDr。死と無の王、人を愛せし者、常夜の灯し手。souyamisaki014と組む前にパートナーだったこともある著者娘で、そのsouyamisaki014にとっては薫陶を受けた先輩であり、そしてDr_Kudoをこの学園に連れてきた張本人でもある。
してやったりと真顔でピースをしながら白状した彼女は、そのポジションを活かしてか、Dr_Kudoをカモフラージュに文体当ての予想を躱してみせたようだ。
meshiochi「いやはや君たち案外素直だねぇ。全部知ってるおれから見れば滑稽でしかたなかったぜ」
ケラケラと、主催であるmeshiochislashがそんなふうに笑う。やっぱ性格悪いなこの娘?
meshiochi「というわけで今回の文体シャッフル撹乱賞はnotyetDrだ! 寿司だからってDr_Kudoはちょっとみんな安直すぎだぜ!」
souyamisaki「騙されたなぁ……でも」
▷ 「でも?」
souyamisaki「みんなそこでひっかかったんなら──」
meshiochi「そして、予想的中率ランキングの発表だ! 今回の最目利きは──souyamisaki014!」
souyamisaki「ほらね?」
▷ 「わお」
人と目合わないくせに予想は合わせられるんだ……我が担当ながらよくわからない小娘だ。1位って。
souyamisaki「やっぱり私ちゃんってば冴えてるね。ちやほやしてもいいよ」
彼女にそんな才覚があるとは……いや、その兆候はずっと前からあった。
決して仲良くはない著者娘が落ち込んでいるところに「どんな気持ち?」と聞きに行こうとしたことや、そもそもの普段からの言動──本質的なもの以外どうでもいいとでも言わんばかりにすべてを舐め腐ったような態度はきっと、本質的なものを見ようとする姿勢の裏返し。
Dr_Kudo「misakiさん……ボクのも当ててほしかった……」
souyamisaki「えぇ……いや無理だって。寿司じゃなかったんならさすがの私でも……いや私が天才ってより他のみんなが愚鈍なだけだし……」
Dr_Kudo「信じてたのに……うぅ……」
souyamisaki「えぇ……なにを……? ──えっ、ちょ?」
meshiochi「あー! souyamisakiお前泣かせたな?」
shionome「正直いつかやるって思ってたけどぉ……さいてー!」
souyamisaki「いや、ちょ、私悪くないって! ていうか泣いてないしよく見なって嘘泣きだよこの女!」
Dr_Kudo「ボクはmisakiさんと一緒に串刺しになりたいだけなのに……」
shionome「う~ん?」
meshiochi「うん?」
EveningRose「ちょっと~、Kudoちゃん泣いちゃったじゃ~ん」
souyamisaki「マジに何なんだこいつ……」
Dr_Kudo「そんなぁ!」
souyamisaki「こっち来んな!? たすけてnotyetDr……あんたの友達だろ……」
notyetDr「……知らないよ」
~~~~~~~
▷ 「で、君から見てDr_Kudoってどんな子?」
解散後、それとなくsouyamisaki014に問いかけた。
souyamisaki「『で』ってなに? 何も見えてこないんだけど」
▷ 「いや、なんかこの前きみと話したそうにしてたから」
souyamisaki「あっ、そうなの……いや何の用だよ……」
うんざりといった様子で彼女は答える。だけどしかし、彼女にしか答えられない問いでもまたある。
──回想・Dr_kudo「あなたのヒーローのtaleです。私たち『幻覚畑』は、これでチームコンテストに出ます」
──回想・Dr_Kudo「souyamisakiさん──よければボクらと組んでくれませんか。あなたが欲しい」
──回想・souyamisaki「悪いね。私ってば人気者でさ、モテるんだよ。……先約がある」
──回想・Dr_Kudo「……そうですか」
チームコンテスト。souyamisaki014が彼女のファンを名乗るDr_Kudoと出会ってから、そろそろ1年。それだけの時間が経ったのならば見えてきたものもあるのではないかと思ったのだが……
▷ 「ほら、きみにしか見えない彼女の側面があるはずだからさ」
──回想・notyetDr「練習中のよそ見には気をつけなよ。目立つと、私とか……そこの編集者みたいなのに目をつけられるから……さ」
──回想・souyamisaki「な……に?」
──回想・notyetDr「なんか……知り合いが酢飯に落ちた……」
──回想「『爆天ニギリ スシブレード:異聞伝』……? またあの辺の子たちの悪ふざけか」「いや待て、これアニメ13話分あるぞ」「9万字──!? 文庫本一冊分のホビアニ幻覚!?」「熱量がおかしい」「このDr_Kudoって新人の子、何者……?」
──回想・souyamisaki「その結果がこれかよ。はっはっは、傑作!」
そう、彼女なら。notyetDrを介した縁が、彼女たちの間には存在する。だからこそ見えるものもあるのではと思ったのだが。
souyamisaki「買いかぶりすぎだよ……あんな変態のことなんてわかんないって」
──回想・Dr_Kudo「ハンバーグさん……ハンバーグさんはどうしてお寿司に? ……そっか。やっぱりそうですよね」
──回想・Dr_Kudo「やっぱりお寿司は回るんですねぇ! 彼らは祝福されているんですよ!」
▷ 「ま、そっか」
こいつコミュ障だもんな……
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【夜のコンテストの前に~ちょっとだけバカ~】
Taga49「それで、ですね? 相談したいのは次のコンテストに出すTaleの話なんです」
souyamisaki「きみの持ちキャラ、イラタニじゃなかったっけ。私その辺よくわかってないけど……」
Taga49。幻覚師、発狂芸人、箍なき者。souyamisaki014の後輩に当たる著者娘が、うちの担当相手にtaleの相談を持ちかけていた。
応対するsouyamisaki014の反応は渋い。とある──初対面が彼女とnotyetDrが嘔吐フェチ談義を始めた瞬間であるという──事由により若干だが彼女のことを苦手としているので、まぁ当然だが。げんかくし──幻覚視、幻覚死、幻覚司、幻覚使──とまで呼ばれる勢いに飲まれたくないという臆病心もあるだろうし。
そもsouyamisaki014はどうにも後輩相手のコミュニケーションを苦手としている節がある。万年筆と紙の置かれたテーブルの上に身を乗り出して話すTaga49相手に、気持ちsouyamisaki014は仰け反っているように見えた。
Taga49「あなたの意見がほしいんです。それに、真北研究員──あなたの人事キャラクターも使う予定なので、そこについてわかるのはあなたしかいません」
souyamisaki「そうは限らない気がするけども……」
ちらりと、視線をそらす──見た先は、Dr_Kudo。
雀卓を囲みながら何やら友人らに説諭をしているようなので、倣って聞き耳を立てた。
Dr_Kudo「真北くんはね、七対子が強いんです」
「え?」「なんて?」「確認だけど麻雀打ってる描写ないよね?」
Dr_Kudo「無いですけど、そこに書いてないだけです。行間読んでください。彼は強いんですよ。一筒の加護がある彼を止められる雀士は存在しないでしょう。そも一筒とは──」
「一筒?」「何が見えてるの……?」「誰かこいつ止めろ」
▷ 「…………」
souyamisaki「ね? 私の知らんことまで知ってるよあいつ」
Taga49「あの人はねぇ……すごいですよ。まぁそれはそれとしてなんですが」
souyamisaki「あー……はいはいわかった。とりあえず目ぇ通すだけだからね」
~~~~~~~
Taga49「つまり真北くんと谷崎の相性の話なんですが…………………よくわからなくなってきました」
souyamisaki「……私の理解込みでの総括だけれど、憐れまれたくなさ故に共感性の枯渇と真実を求める姿勢への評価は高い、が、共感性が枯渇していることに由来する粗雑さが地雷である──みたいな話だと思うんだけれど」
Taga49「──! そうです。やっぱりあなたに相談してよかった……あれですね。あなたの理解力が少し羨ましい」
souyamisaki「私ぁ天才だからね。尊敬しても良いんだぜ、後輩ちゃん」
Taga49「それは元々してますよ?」
souyamisaki「あ……そう」
▷ 「すっかり夜も更けたな」
Taga49の草稿を読み、本人が行き詰まっているというポイントに対してアドバイスを返す。
souyamisaki014が理解を言葉にしていくたびにTaga49が目を輝かせていく。相談事はうまく運んでいるようだ。
その量を加味しなければだけれども。
Taga49「あっ! すみません、つい熱中しちゃって──」
souyamisaki「はは、いや、うん……幻覚だのなんだのってのの恐ろしさが身にしみたよ」
喋り倒すTaga49の相手をしているうちに、すっかり日は落ちて時刻は消灯時間。寮の共用スペースは店じまいだ。
恐るべき没入力を見せられ、souyamisaki014は引き気味に笑っていた。
Taga49「じゃあ執筆してきますね! おやすみなさい!」
souyamisaki「ふあ……さて、私は悠々と惰眠を貪りに行きますか」
自室に戻っていくTaga49をひらひらと手を降って見送り、souyamisaki014も席を立った。
Dr_Kudo「……あの、souyamisakiさん」
souyamisaki「うえっ、あんたもいたんかい」
麻雀にケリが付いたのか、彼女を待っていたDr_Kudoがひとり、souyamisaki014を呼び止めた。
Dr_Kudo「さっきの真北くんが麻雀打つ話、ちゃんとtaleにしようと思うんですけど、ヒロインの名前をつけてくれませんか?」
souyamisaki「なんだそれくらい、この前私を待ってたってのもそれ──いや待てなに? 麻雀を書く?」
Dr_Kudo「はい」
souyamisaki「……だけかぁ」
返事1つ以外、Dr_Kudoは説明をしない。
理解が追いついていないsouyamisaki014は、彼女の口が再び開くことは無さそうだと、頼まれた名前を考えることに意識を割いたようだ。
souyamisaki「……水分 藍。『みくまり』──古語で分水嶺。それと黄昏時の空の色から『あい』。これはもちろん愛とも掛かる」
Dr_Kudo「わぁ……! ありがとうございます、それでは楽しみにしていてください!」
これでいいだろと言いたげに口に出した案を、Dr_Kudoは気に入ってくれたようだった。
souyamisaki「マジで何……?」
去っていったDr_Kudoを唖然と見送り、ひとりごちる。
meshiochi「はーん、それで? やられっぱなしのまま指くわえて見てるんですかぁ~? センパイよぉ」
souyamisaki「あん? 可愛いからって調子乗ってっと唇ふさいで黙らすからなクソガキ」
翌日。
おそらくDr_Kudo相手に後手に回っている状況を弱みと見たのだろう、みんなのイカした後輩・meshiochislashが、souyamisaki014をそんな風にからかっていた。
souyamisaki「だけど……やられっぱなしなのは確かに性に合わない。よくわかってるじゃん」
パシ、と手に持った資料を叩く。
印字されたタイトルは──『爆天ニギリ スシブレード:異聞伝』。Dr_Kudoの原点にして原液、彼女がすべてを込めた(らしい)物語を、souyamisaki014は読み返していた。
souyamisaki「だから研究中ってワケ。あのアマの考えてること暴いてやる」
meshiochi「そんなことできんのか? いくらなんでも生のコミュニケーションと作品とは話が違うだろ、コミュ障か?」
souyamisaki「コミュ障だからね──って思ってたんだけど」
いくら原液が詰まっている──その結果の大暴走だ──とは言え、作品1つから作者性を読み取ろうとするのは無謀だと思う。そこはmeshiochislashに賛成だ。だけど、少なくともそうしないよりは見えてくるものがあるはずだ。そしてsouyamisaki014になら、Dr_Kudo自信がファンとなり、同じ著者娘によって見込まれた者になら、多分それだけで十分な要素が揃いうる。
meshiochi「けど?」
souyamisaki「気づいちった。これ私もできるわ」
meshiochi「……正気か?」
正気か?
~~~~~~~
souyamisaki「……っていうわけで、あの子の本質はおそらく『寿司』なんだよ」
meshiochi「は? やっぱ暑さでどうにかなったか? 元体育会系のくせに?」
souyamisaki「聞きなって。人の話を」
胡乱な形容で読み取った『答え』を総括するsouyamisaki014を、meshiochislashは怪訝な顔で見つめた。
souyamisaki「寿ぎを司ると書いて『寿司』。何を寿ぐのかというのが大事なところになるわけだけど……それもこン中に書いてある。寿司だよ。人と共にある人ならざるもの。あるいは解釈を広げて──境界を超えて交わるものとでもしようか」
meshiochi「すっげぇ知った口……」
souyamisaki「実際知ってるからね」
スシブレード──人と寿司が一体となって戦うスポーツを題材としたカノン。その中での寿司という存在、そしてそこに仮託された感情そのものこそがDr_Kudoを突き動かすものであると、souyamisaki014は断定した。
過剰なまでの自信を滲ませ、口の端を歪める。どうやらかなりの確信があるようだ。
souyamisaki「本質は見えた。向こうがその気ならやってやろうじゃん」
meshiochi「やってやろうじゃんって、お前」
向こうがsouyamisaki014のキャラクターで物語を描き出すと言うなら──こちらもDr_Kudoの本質を糧に物語を作る。彼女の瞳は、悪戯心か、爛々としていた。
meshiochi「やっぱり出るんだ。夜のコンテスト」
souyamisaki「まぁね」
夜のコンテスト。毎年夏季に行われる砂箱学園一大コンテスト──今年のテーマは「夜」だ。
まだ確認していなかったが、souyamisaki014にも出走の意思はあるらしい。勝負事に積極的でない彼女のことだから、こちらの見立てとしては半々だと思っていたのだけれど……
souyamisaki「元々いいチャンスだと思ってたんだ。今回はあの人もかなりやる気らしいし」
meshiochi「死と無の王か」
meshiochislashの問いにこくりと首肯することで、答えた。
死と無の王──noteytDr。夏季コンテスト2冠の王は、今年のコンテストで再び冠を獲ると息巻いている。曰く「頂上で会いましょう。誰の血にペンを浸すことになるのか、楽しみです」。
souyamisaki「恩は返しておきたい質でさ。そんなに首斬られたいなら介錯してやろうかと思って」
meshiochi「弟子気取りか? ちょっと気持ち悪いぞ、それは」
souyamisaki「別に気取ってないよ。事実そうだし」
meshiochi「へー、そう」
気のない返事に面食らい「いや嘘だけど……」とどもるsouyamisaki014の眼前に立ちふさがって、meshiochislashが言う。
大胆不敵、挑戦的で野心的。そしてその感情に嘘をつかない。『負けて新周回』コンティニューゲーム、『不退転・無限鳴音』ハウリング・ルーザー、『音楽感傷』エモーショナル・エモーション──meshiochislashがそう呼ばれていることを思い出すような、そんな態度で彼女はsouyamisaki014を指さした。
meshiochi「じゃあライバルってことになるな。王の前におれを倒さなきゃいけないってこと忘れんなよ」
souyamisaki「ハッ、言ってろ負け犬、チームコンテストんときのかわいい泣き顔私は覚えてっからな」
meshiochi「あ? てめぇ言っていいことと悪いことがあんだろうがよ、物書きのくせに気遣いって言葉知らねぇの?」
souyamisaki「著者娘にそんなの期待するほうがバカなんだよバーカ!」
Taga49、Dr_Kudo、そしてnotyetDrに続き、meshiochislash。souyamisaki014と仲が良いだけではない、この学園屈指の強豪たちと競い合う。そう言った──言えるようになった彼女の成長を、誇らしく思う。
【イベントストーリー報酬:『ジュエル×50』を獲得しました!】
【連続で視聴できるストーリーがあります。再生しますか?】
【夜のコンテスト~ただ君に晴れ~】
十数日を経て……開戦前夜、souyamisaki014の部屋にて。
souyamisaki「駄目だ……」
▷ 「どうした?」
souyamisaki「間に合わない……」
▷ 「あー……」
まぁ、そうだろう。夏のコンテストに出場するにあたって学園生に用意される事前準備期間はひと月──本番期間中を合わせても2ヶ月──だ。現在の進捗状況は、予想される作業量から逆算した予定進捗より大幅に遅れていた。物語は基本的に長くなればなるほど設計に緻密さが要求される。それだけで一苦労だろうに、さらには純粋な作業量も要求されるとなれば、まぁ、この展開は予想できた。
そう、残された時間は『異聞伝』の真似──大長編をやるのには短すぎる。
souyamisaki「この私がだぞ……? 『日奉』のときも、間に合わせてみせたのに……」
こちらとしては想定通りだが、本人としてはかなりショックらしかった。
『日奉一族連続殺人事件/毒蛇、毒草、毒ノ花』──carbon13の作品に影響を受けて作り上げたあの物語は、souyamisaki014にとって初めての長編だったのもあって、制作スケジュールは押しに押していた。それでも、彼女は間に合わせた。
その『日奉一族連続殺人事件』のときの作業ペースをもとに予定を組んだのだ。それで行けるという公算だった。そのことは一緒に確認している。だが、その予定は守れていない。
──回想・carbon13「『こちら側』に来ましたね。ようこそ、5万字の壁を超えたところへ。ここから先は世界が違いますよ、souyamisakiちゃん──私たちの成長曲線は必ずしも緩やかではありません。何らかのきっかけで、垂直に伸びることのほうが多い……壁を超えるように。少なくとも、私はそうでした」
それでも、壁は超えたはずなのに。
なのに──それでも届かない。
souyamisaki「なんで……? Dr_Kudoにできて、私にできない……? そんなはず……同じひとに見出されたんだぞ……」
notyetDrに対する弟子面は、何もただの冗談ではなかったようだ。少なからず彼女に見出されたのだという自覚はあったらしい。だからこその困惑か。
souyamisaki014の産出したキャラクターを扱える著者娘、その作者性が色濃く投影されている作品。だとするならば、逆にsouyamisaki014もその作品をエミュレートできるはず。その発想には幾分か飛躍があるんじゃないかとも思ったが、もう一つ材料があった。同じ著者娘を介した縁──やはりそれは、何かしら彼女の中で意味を有していたらしい。
▷ 「──とりあえず一休みしながら動静を見守ろう」
日付が変わった。今刻をもって、『夜のコンテスト』は開幕する。
開幕直後とは言え、このタイミングから既に、事前に十全な準備を整えた著者娘たちが動き出す──この学園での戦いは、最初からクライマックスだ。
souyamisaki「……もうそんな時間かあ」
一旦休憩の申し出を受け入れてくれたのか、身を投げ出すように椅子にもたれかかった。
だらりと伸ばした腕で携帯端末を掴み、時間を確認する。
souyamisaki「思ったより多いな……Taga49も、もう投げたのか」
スリープを解かれた画面には、新着記事のタイトルが並んでいる。スタートダッシュ勢の中に混じって、見覚えのあるタイトル──『紅鏡の傍らに眠る』、Taga49がsouyamisaki014に相談していた件の記事が投稿されていた。
souyamisaki「Dr_Kudoも……あの子、あれまじだったのかよ」
『真北迷牌伝説』──なんとも胡乱なタイトルのTaleだが、何はともあれ宣言通り仕上げてきた。「やっぱ、やらないと」と机に向かう。
その視界の端で捉えたのは、『彼女』の名前。
souyamisaki「ッ、meshiochislash……! ……まぁいいや。あの人の首獲るついでにきみも踏み台にしてやるさ」
一瞬、先を越されたと言いたげにsouyamisaki014の眉が歪んだ──だけどmeshiochislashの主戦場は短編だ。速度の面においてはそも比較対象ではない。それを思い出したのか、焦りを振り払うようにかぶりを振って姿勢を戻した。
だが……
▷ 「……そのnotyetDrなんだけど」
手元の端末を操作して、souyamisaki014に見せる。
souyamisaki「来たか……でもこれ」
▷ 「GoIフォーマットだね」
souyamisaki「──私とは、部門違い」
『鼓動の時計』──souyamisaki014が書こうとしているtaleとは別の部門へ出場する作品。notyetDrの戦場とsouyamisaki014の戦場は分かたれた。
souyamisaki「はは、そっか……私じゃなかったか……」
▷ 「meshiochislashに勝つんじゃなかったの?」
挑むと決めたnotyetDrに届かない。souyamisaki014はそれに失意しているらしい。
──だが、meshiochislashからの挑戦は依然有効なはず。それを忘れたか。なにもライバルは1人だけとは言っていない。
souyamisaki「そうじゃん! あいつを、あいつを……」
▷ 「souyamisaki?」
思い出したように声を上げてみせるが、それもすぐにしぼむ。
souyamisaki「別に、あいつに勝ちたいわけじゃないんだよ……あいつを負かして、何になる? ……勝ったり負けたりにどうしてそこまで躍起になれるんだ、みんな」
目を伏せて、そう答えた。
むしろかつてチームコンテストの折、彼女を表彰台に連れていけなかった負い目のほうが大きい……のだろう、彼女の中では。頭を振って、押し黙る
▷ 「notyetDrの首を穫るってのはどうしたの?」
souyamisaki「あの人が戦いたがってるのは勝ったり負けたりしたいからじゃないと思うよ。あの人は……超えられたがっているんだよ。多分。自分の想像できる範囲のことは自分で形にできるから……自分にできないことを、自分に理解の及ばないものを、それを持って現れるひとを、求めてる。んだと思う」
どうやら彼女の中で『首を穫る』というのは『勝ちたい』とは意味を異にしていたようだ。クオリティの高さは評価に結びつきはすれど、創作の本質はそこだけではない。良いものを書けばnotyetDrより上の賞に行けるかもしれないが、それは彼女の中での決着の基準ではなかったらしい。
だからか、Dr_Kudoを参考にしようとしたのは──souyamisaki014にとって予想の付かないもの、理解さえ及ばないもの。無意識か意図的か、それをトレースしたんだろう。
souyamisaki「だからあの人の予想を超えたかったんだけど。私じゃなかったんだろうね、今回の敵は……」
notyetDrが──それがsouyamisaki014であるかどうかに関わらず──誰か特定のライバルをマークして戦場に出てきたかどうかは置いておくとして──あの子は挑まれれば誰にでも応じる質だし──、しかしsouyamisaki014としてはそれが歯がゆいのだろう。妙なところで一途というか、湿っぽい奴……。
「いや、そもそも二番煎じで一本取れるともとか、思い上がりもいいとこだったね」と、そう、言い切った。
──勝ち負けを超えた戦いでさえも、挑むには遠い。既にDr_Kudoが通った道すら、souyamisaki014には遠く映る。
結局。コンテスト終了まで彼女の作品が書き上がることはなかった。
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【取材~月曜日~】
──回想・souyamisaki「友達と旅行してくるね! 行き先? 北海道縦断!」
▷ 「なんだそのバイタリティ……」
夏季のコンテスト閉幕後。souyamisaki014はそう言って北の大地・北海道へと飛んだ。そろそろ一週間が経つ──旅程は終盤で、あと1日2日のうちに帰ってくるらしい。1日2日ってなんだよ。さては旅程の管理を友達に任せてやがるな?
なぜそんな急に、という質問に対する答えは「寿司の話書くんだから、取材よ取材。美味い魚食べてくる」だそうで。書き上がらなかった作品は絶対に完成させると、言外にそう伝えたいのだろう。けれどそもそも彼女はわざわざ取材に出向くタイプではないはずだけど……まぁ、少しくらいは察してあげよう。
▷ 「だけど……」
とは言ったものの、送られてきた写真全部肉料理とラーメンなんだけど……? いや、ジンギスカンは向こうでしか食べられないから存分に堪能しておいてほしいのはそうだけども。しかし気に入り過ぎなところはあるが……BBQでまでジンギスカン焼いてるし。肉で肉の休憩をするなよ、野菜が乗ってるべきだろそのジンギスカンのトレー。野菜食べてるかなぁ。あの子ハンバーグに付いてくる野菜とか食べないからなぁ……
meshiochi「あれ、souyamisakiの担当さんじゃん。置いてかれたってのホントだったんだ」
▷ 「おろ、引きこもりちゃん。元気?」
meshiochi「……元気は元気だけどね」
新学期は始まっている。授業も。が、白昼堂々、声をかけてきた著者娘がいた。
meshiochislash──彼女もsouyamisaki014と同じく、夜のコンテストでの顛末を受けて不登校を決め込んでいた。
もっとも、この子の場合souyamisaki014とはまた違う。なんでも賞を取れるような作品を書き上げるために執筆に集中するとかでしばらく引きこもると宣言をした後、ひと月以上そのままだ。souyamisaki014はあと何日もしないで帰ってくるわけだが、彼女の方はどうするのだろう。
meshiochi「おれは……まぁ良い評価取れたらまた顔出すよ」
ああ、なるほど。引っ込みがつかなくなっているわけだ。彼女は夜のコンテストでも受賞を逃しているわけだし……それでか、手元の買い物袋は。買い物帰り──学園生たちが絶対街に出ない時間を狙って買い出しに行っていたのだろう。
souyamisaki014と似ているというか、なんというか。彼女も出立に際してmeshiochislashに対する意識はこぼしていた。「取材もそうだけど……meshiochislashに会いたくねぇ~、ってのもあったりなかったり」とか「うそうそ──でもあいつにお土産買ったほうが良いかなぁ、逆に。いやむしろ厚顔無恥にももっかい煽り入れとくべきか!?」とか、なんとか。
meshiochi「そういや、そのsouyamisakiのやろうについてなんだけど」
▷ 「? 何か用でも?」
担当編集である自分に言うということは、なんだろう。サプライズか何かか?
meshiochi「いやいや。別にただの陰口……そのうち本人に釘刺そうかとも思ってたんだけど、せっかくだし」
▷ 「あ~……」
いまはsouyamisaki014が別行動しているからか。なるほど。
meshiochi「なんつうかさぁ……あいつ人とのコミュニケーションってものを勘違いしてるんじゃねえかなって思って」
コミュニケーション? いやまぁ、思い当たる節は多々あるが……意思疎通自体に問題はない、と思うのだけど。会話の癖という点に関して問題しかないのは、そう──とはいえ、口の悪さでは似たようなmeshiochislashに言われるとはsouyamisaki014もヤキが回ったか?
meshiochi「いま失礼なこと考えたろアンタ……ま、おれが言うなって話じゃあるかもしれないけどさ。知ってる? おれって結構見栄っ張りなんだよ。わりと無理しちゃったりしてるわけ」
──回想・souyamisaki「meshiochislash──あいつ生意気な口効くわりに実はバブちゃんだからさ。あれ本人はキャラ作りきれてると思ってんのかね? まあだからこれで良いんじゃない? ボロ出せるときに出しとけば。私が恥も外聞もなく土下座しといてやるから、その代わり存分にメソメソしてればいいよ」
チームコンテスト閉幕と、主催者meshiochislashの失意そして失踪。それに伴うゴタゴタのときに、そういえばsouyamisaki014もそんなことを言っていた。
meshiochi「キャラ作って頑張ってさ。それでこの実績じゃザマぁないな……っていうのは、おれ個人の愚痴だから置いとくにしても。んで、そう。souyamisakiのやつはさぁ、知った口聞きやがるんだよな」
一瞬、愚痴めいて視線を落としたのは見なかったことにしてあげよう。
まぁ、そうだな……それはそうなのだと思う。
meshiochi「あいつ、人のこと知った気になるの得意なんだよ……いや、あいつの読解力は本物だから実際見えてるのかもしんないけど。でも、souyamisakiと目が合ったことねぇんだよな」
▷ 「コミュ障らしいからね、本人も言ってたけど」
彼女の持つ読解力のスキルは、実際他人が相手でも有効に働いているのだろう。だが、他者から自分に向く視線というものが彼女の視界には入っていない──といったところだろうか?
──「私たちのコミュニケーションは空虚なのではないか」、ね……
meshiochi「『自分がどう見られてるか』とか、『これ言ったらどんな顔するかな』とか。そういうの、あいつ、無いんだよ。だからあんな無神経でガサツなんだ。人の考えてることはわかるのに人の気持ちがわかんねぇんだ、クソ女め……」
▷ 「まぁ、そういうところあるよな、あいつ」
最後の方はもはや恨み節だが、同意せざるを得ないところはある。
meshiochi「クソ、一周回って羨ましくなってきたな……まぁいいや。だからあいつ帰ってきたらアンタからも言っといてくれよ、『友達に感謝しろよ』って」
▷ 「心得た」
まぁ、それはそうだ。当たり前の、だけど大事なこと──そういうのは言明に教わる機会がないから。souyamisaki014のようなやつには、言って聞かせておかないと駄目かもしれない。あんな変な奴に付き合ってくれる友人など得難いだろう。特にこの学園の外の人となればなおのこと。
この学園の著者娘たちは、良くも悪くも究極に個人主義だ。自分のこと以外に対して関心がない──だからこそsouyamisaki014のようなおかしな奴でもコミュニティの輪にいられるわけだが。
著者娘のコミュニケーションがある種の空虚さを伴うのはそういった部分も大きいだろう。meshiochislashの不登校も──彼女をおもちゃにしたがる一部の娘たちが定期的に話題に出す以外は──別段大きな問題になってはいない。そんな不干渉主義もこのコミュニティの良くも悪くもな部分の証左。そういうのもあって、この学園とは異なるルールで生きている人との関係は貴重だ。
▷ 「そういえば、この前souyamisakiが──」
~~~~~~~
▷ 「ああ、定時連絡か──にしては少し早くない?」
meshiochislashと陰口を叩いて、編集者の仕事をして、そして、夜。携帯にsouyamisaki014からのメッセージが入っていた。
旅立ってからこっち、souyamisaki014が毎日おそらく眠る前に連絡を寄越してきていたのだが、その連絡にしてはまだ少し時間が早い。なんだろう? そう思ってメッセンジャーアプリを開いた。
souyamisaki『友達と喧嘩した😭』
フラグ回収はっやいなぁ……
けどまぁ、予想していた展開ではある。1週間も他人と旅行すればトラブルの1つや2つくらい起こるだろう──いわんやあのsouyamisaki014だ。正直良くこんな終盤まで保ったなとも思う。
▷ 「──大丈夫?」
どうせsouyamisakiが怒らせたんだろうとは思いつつ状況を問いただすと、稚内で食事を取ろうとしていたところ、店を決める段になって友達を怒らせて、喧嘩。いまは別れて別行動中……ということらしい。
流石に心配になって、通話を繋いだ。
souyamisaki「うん……あのね、寒い。暗いし……もうヤダ……」
ああ、向こうの夜は冷えるから……海沿いだろうし。踏んだり蹴ったりというやつなのか、涙声で──泣いてるだけじゃないかもしれない──震えた弱音が電話口から聞こえる。
souyamisaki「ここどこ……? ずっと歩いてるんだけど、ホテルが遠い……」
友達と別れて、気が動転したままひたすら歩いているうちに迷ったらしい。とりあえず灯りの見える方向へ道を辿っているとのことだ。
女の子が夜道を1人で歩くんじゃない──とは言いたくても言えないが、それ以前にそのエリアで夜中に歩き回るのは動物とか出て危ないんじゃ……?
souyamisaki「どうして私いつもこうなんだろ……自分が嫌だ……」
小さくえづきながら、頼りなく単調な足音と一緒に、時々そんな弱音が聞こえてくる。
それを、聞いていた。
souyamisaki「満足なもん書けないくせに……友達に気を遣うこともできない……私は……どうして……」
こいついっちょ前に凹んだりできるんだ……と思いながら、耳を傾ける。たまに、当たり障りのない言葉を投げかけつつ──この子励ますならどうするのが正解なんだ……?
souyamisaki「…………」
▷ 「souyamisaki?」
ふと、souyamisaki014が黙りこくった。──足音も、止んだ。
souyamisaki「────灯台だ」
今日一番の涙声で、そう告げた。
明るい方に向かって歩き続けている──とは言っていたが。ホテルの高層階の灯りだと思っていたものは、灯台の光だったらしい。泣きながら歩いてたから高いところにあるものが見えてなかったんだ……
彼女がいるエリアで、高いところにある灯台と言ったら──宗谷岬souyamisaki灯台。そしてそれがおわす丘陵の麓は観光地だ。街の灯りが、そこにはある。
暗い道を歩き続けた緊張感に、その明るさが染みたのだろう。安心感でぐずぐずの涙声が、小さく何かを呟いた。
souyamisaki「──ずっと、そこで…………」
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【執筆~アカシア~】
結局、あの後は地元の皆さまと環境客の方々の親切で無事にホテルへ戻れたらしい。友達と仲直りできたかどうかは聞けていないが。
souyamisaki「ただいま……やるよ」
そして、彼女は帰ってきた。いつもの世界を舐め腐ったような笑顔ではなく、いつになく真剣な面持ちで。旅の疲れか、それとも──
片付けを終えるやいなや、「書く」と、そう告げて、いま、机に向かっている。
souyamisaki「書きにくいな、これ……手ぇ汚れんじゃん」
手には、ガラス製の万年筆ペン──道中、小樽で仕入れた土産だそうだ。実を言うとmeshiochislashと出くわしたのはsouyamisakiに先んじて宅急便で寮に着いたそれを受け取りにきた時である。
Taga49やnotyetDr、あとはEveningRose──souyamisaki014の周りにいる著者娘たちがそういうものを用いて物を書くように、アナログ派でかつ道具に拘る著者娘は、この現代でありながらもインクとペンを好む著者娘は多い。彼女はそうではなかったはずだが、デビューというやつだろうか。
souyamisaki「これ疲れるわ、書きにくいったらないぜ。今日はおしまい! 寝て仕切り直す。そういうわけだから、おやすみ」
▷ 「……おやすみ」
慣れない道具での執筆に疲れたらしいsouyamisaki014が、ガラスのペンを投げ置いてベッドに飛び込んだ。
インクの後片付けとか教わってないんだろうなぁ……ペンに付いたインクを拭き取りながら、彼女が散らかしたものをまとめていく。そうこうしているうちに、寝息が聞こえ始めた。どこで誰といても寝られるスキル、便利だな……
とまれ、『編集者』の仕事はここからだ。
~~~~~~~
風を感じた。あたりを見渡すと、そこは川辺──正しくは、河川敷のグラウンド。
▷ 「ここが彼女の夢界──」
『夢界』、あるいは『コレクティブ』と一般に言われるもの。著者娘たちの中に潜む、彼女たちが生み出す世界の根源。時折、それはこうして現実に零れ出ることがある──一部の著者娘が「幻覚を見る」だのと言われているのは、これと現実空間の境目が曖昧な体質であるところに起因する。
睡眠なんかはそのきっかけとして良い例だ。現と心の奥底にあるナニカの違いが曖昧になるから。だから、こうして不思議な夢を引き起こす。今のこれは典型的な例だ。
著者娘たちの創作は、世界を変える力がある。その根源であるこの心象風景には、世界を侵食して、不思議な何かを引き起こす作用があって当然だ。そもそも彼女たちの持つ創作の権能は、この不思議な世界を外界に押し広げることができる才覚に由来する──という説もある。この前だって、souyamisaki014が稚内から宗谷岬までたどり着いたのも『これ』が限定的に発現したせいだろう。冷静に考えて、普通1、2時間歩いたくらいじゃ到達できないわけで。稚内市内と宗谷岬は直線距離でも20km以上離れている。
なぜ『編集者』という役割がこの砂箱学園にあって、どうして著者娘とパートナーシップを結ぶのか。その答えの1つがこれだ。我々は、これを確かに保ち、同時に収め容れ、何より護らなければならない。
▷ 「あれは、ちっちゃいsouyamisaki014……?」
だから、この夢が何なのか、なにかするべき事はあるかと、彼女の夢に分析の目を向ける──まず目についたのは、それ。
グラウンドの赤茶けた土の上、見慣れた金色の髪の少女が、ポツリと立っていた。あの髪の色は、souyamisaki014のものだろう。そもそもここは彼女の世界なのだから。
しかし、その姿には見知っている彼女とは違うところがいくつか──背丈は今より小さいし、髪も少し短い。その髪も土埃でか色がくすんでいる。今の彼女なら嫌がりそうな汚れ方だ……そして何より、写真の中でしか見たことのない、背番号14番のユニフォーム。
この夢の核は、彼女か──souyamisaki014の、幼い頃の姿。
▷ 「何をしているんだろう……」
子供たち「──、──!」
子供たち「──────」
子供たち「──っ! ──」
夢の風景が、高速で移ろって。高かった陽はオレンジ色に変わっていく。下校していく子供だろうか? 人影が、はしゃぎじゃれ合いながら堤防の上を通り過ぎていく。
それを、幼souyamisaki014はただグラウンドの中から眺めていた。
▷ 「……日が暮れた」
そして、日は暮れる。
ユニフォームの子供たち「──!」
ユニフォームの子供たち「──────」
暗くなった堤防の上に、ライトの筋がいくつか。souyamisaki014と同じユニフォームを着た子供──きっと、チームメイト──彼ら彼女らが、楽しげに自転車で、グラウンドから去っていく。
それを、幼souyamisaki014はただグラウンドの中から眺めていて、そして、仲間に向かっておずおずと手を伸ばし──
souyamisaki「待って」
彼女が、そう声を発した。
souyamisaki「──って、『一緒に帰ろ』って、言えたらよかったのにね」
暗闇から現われて、幼少の自分に歩み寄りながら、そう言った。
souyamisaki「だけどそれを言えたら、私は私をやってないよな」
彼女そうだから著者娘こうなのか、著者娘こうだから彼女そうなのか。
何年か後に著者娘としてデビューを果たすsouyamisaki014には、しかし当然そこに至る道としての過去がある。
そうなる必定としての過去なのか、この過去があるから今こうして立っているのか──なんにせよその因果は、souyamisaki014という個性に収束していく。
souyamisaki「いつもそうなんだ、私は……いつも……このグラウンドから……」
幼misaki「…………」
置いてけぼりの子供モンデンキント。はじめにそう呼んだのは、誰だったか。
グラウンドで生きていたサッカー少女にして、本来の居場所である著者娘へのコンバートを果たしたことも。著者娘式のコミュニケーションしか取れずに友達と喧嘩したことも。きっとこの夢が象徴する。
本質以外のすべてを腐すような生意気な態度と裏腹の、時折見せる臆病さ。『これ』がその根底にあるものか。あるいは、その本質に対する希求も──
souyamisaki「ごめん……どんなに色んな場所に行って、どれだけ美味しいものを食べて、どれほど素敵な人に会っても……お前は変われない。変われなかった」
幼少の姿をした自分を抱きとめて、彼女は言った。
空は雲に閉ざされて暗い──背の低い少女に合わせて下を向いた顔は、影に隠れてよく見えない。
▷ 「…………」
著者娘たち「──────────。────」
著者娘たち「──、──、────────。────」
幼souyamisakiの視線は、堤防へ向いた──人影が、通り過ぎていく。
souyamisaki「お前はどこへも行けない。だけど、多分──そいつらばかり見てるから、お前は迷子になるんだよ」
それでも、それを諭すように、souyamisaki014は告げる。
souyamisaki「やっとわかったよ。ずっとここから見てたって──ずっと光ってたって」
──回想・carbon13「どうやら私たちはあまりにも自分勝手がすぎるようです」
──回想・carbon13「私たちはエコーチェンバーの内側からしか『これ』を見いだせない」
souyamisaki「モノマネのコツや、他人の本質なんかじゃなくて、私は──もっと早く私おまえを見つけるべきだった」
──回想・souyamisaki「そうやって生まれる繋がりだって、多分あるんだよ」
風が、吹いた。
souyamisaki「だからこそ、今なら届く。待たせたね……いやはや、あんたの方が私のことよく分かってたとか、思いもよらなかった」
風に押し流されて雲が晴れる。月が、照っていた。
グラウンドの対面、ハーフウェーラインを挟んだ向こう側。月光に照らされて姿を現したのは──Dr_Kudo。
souyamisaki「同じだったんだ。私もあんたと同じ──このグラウンドの外に手を伸ばしたかった。私たちなら、もしかしたら手だって繋げるかもね」
──回想・Dr_Kudo「あなたのヒーローのtaleです」
──回想・Dr_Kudo「ボクはmisakiさんと一緒に串刺しになりたいだけなのに……」
souyamisaki「伝えるよ。私の世界のあんたを──あんたが私をそうしたみたいに」
──回想・souyamisaki「やられっぱなしなのは確かに性に合わない」
souyamisaki「始めよう、創作コミュニケーションを。あんたが私に手を伸ばすだけでも、私があんたを読み解くだけでもない、目と目を合わせた、きらきら星の歌を」
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【連続で視聴できるストーリーがあります。再生しますか?】
【未聞伝~エイリアンズ~】
あれから何日か経って。
「お見合いの記事どうする?」「うーん、この辺とか使いたいかなぁ」「なるほど! いい選球眼だね」
砂箱学園は、次のイベントに向けた準備期間に入っていた。Taga49がsouyamisaki014に相談を持ちかけていたように、学園のあちこちで創作トークに花が咲く。
Dr_Kudo「……コーヒーは、お寿司ですねぇ」
▷ 「カフェテリアにいるぞ」
souyamisaki『おっけー』
しかしsouyamisaki014は未だ沈黙を保ったままだ──対外的には。
もちろん、担当編集としては彼女が動いていることを知っている。そのsouyamisaki014の頼みでDr_Kudoを探していたのだから。居所を知らせるメッセージを、送った。
Dr_Kudo「misakiさん……」
Dr_Kudoはあれやこれやと解釈や考察について論を交わす著者娘たちを見ていて──souyamisaki014の企みなど知る由もないDr_Kudoが、彼女の名前を呟いた。それを見てほくそ笑む。
Dr_Kudoの視界の外で、金色の髪が揺れたから。
souyamisaki「なに、何か用?」
Dr_Kudo「えっ……えっ……!? どうしてmisakiさんがここに!?」
souyamisaki「幽霊が出たみたいな反応すんなよ、失礼でしょ。旅行行ってただけなのに酷くない? 砂箱学園にいじめはないって聞いてるんだけど」
ケラケラと、すべてを小馬鹿にしたような笑みを浮かべて喋る。souyamisaki014、完全復調──ここ最近の弱気は、払拭されていた。
Dr_Kudo「いえ……最近ずっと見かけなかったもので……。会いたいなって、思って」
souyamisaki「そっか──いや『そっか』じゃないな。私のこと好きすぎでしょ」
「ま、いいけど」と引きつった笑いを浮かべながら、souyamisaki014はDr_Kudoの隣りに座った。
▷ 「いや、完全復調とは違うなあれ」
よく見ると少し無理して笑っているようにも見える。内心はおおかた『なんだこいつ……』とかだろうか。本質以外のすべてを舐め腐っている笑顔では、ない。
慎重に、だけど大胆に。境界を見据えながら、それを超えるための一歩──souyamisaki014が、手を伸ばした。
souyamisaki「受け取れよ。これが私の──スシブレードだ」
Dr_Kudo「────!」
Dr_Kudoが目を見開く。
悪戯げに笑ってsouyamisaki014が差し出した、ひと束の原稿。そこに綴られているのは、『フードファイト スシブレード:未聞伝』──Dr_Kudoの『異聞伝』を彼女流にアレンジした物語。
長い迷走の果てに成し遂げた一作。それは、目と目を合わせて受け渡されたのだった。
~~~~~~~
souyamisaki「それ、ロン」
Dr_Kudo「うわぁ! misakiさん、うまい! さすがですね……やはりあなたにも雀牌の声が!」
souyamisaki「聞こえてねぇよそんなもん! そういうヤバそうなのはスシ果てのとこにしかいねぇって」
shionome「ってことはきみもだよう!」
souyamisaki「……そうだった!」
それからいくらか経ったある日。
souyamisakiたちが、麻雀卓を囲っていた。
notyetDr「……………」
▷ 「混ざんないの?」
それを、notyetDrが見ている。
notyetDr「──見てるのが好きなだけだから」
▷ 「あー、いるいるそういう子」
混ざらないのかと訊いても、小さく首を振って否定する。もっとも、それは別に拒絶を意味しない──
notyetDr「……あの娘たちが仲良くなったことを嬉しく思うんです。これでも」
▷ 「知ってるよ」
誤解を避けようとしたのか、後からそう付け足した。
だが生憎別にそれくらい知っている──『人を愛せし者』との異名は伊達ではない。彼女はこう見えて、人をよく見ている。
notyetDr「ふたりとも不器用だから」
ふたりに限らないとは思うが──著者娘はなんだかんだでみなディスコミュニケーションの傾向が強いのはcarbon13も言っていた通りだし、傍目に見ればそれこそnotyetDr自身もかなりコミュ障がちに見られる著者娘だと思う。
notyetDr「震えながら手を伸ばす。その勇気に祝福があればいいと、ずっと思っていたんです」
ああ──そういう。
『境界を超えるもの』、か。なるほどDr_Kudoを連れてきたのは──そしてsouyamisaki014と引き合わせたのは彼女だったなと、思う。
──回想・notyetDr「きっと、気にいると思うよ」
──回想・Dr_Kudo「あれがnotちゃんの……」
──回想・Dr_Kudo「misakiさん! えっと……好きなお寿司ってなんですかっ!?」
──回想・souyamisaki「は? え、いや……月見うどんだけど……」
▷ 「……その歳で親面?」
実際、その願いには賛同する。「私たちは、物語を作る能力に依存している」。ふたりとも、特にDr_Kudoは、そういう物語を作ることでしか繋がりを希求できない娘だったわけで──それゆえにsouyamisaki014からは避けられてさえいたわけだが。
それでも、それだからこそ、彼女たちは繋がった。
ただひとつ、彼女たちに保証された魔法。それはひどく当然で、だけどとても難しい、誰かを好きになったりする、そんな奇跡。それが彼女たちにあればいいと──思うまでもなく、それこそが彼女たちの習性だ。そう、悔しがるべきか誇るべきか、今回、編集者アドバイザーとしての仕事を何もしていない。これは彼女が単独で成し遂げたことだった。
notyetDr「自慢の後輩ですからね。親心だって芽生えます」
何も言い返せなくなって、せめてもとからかうと、ジトリとした視線が返ってきた。
軽く肩をすくめて顔を逸らす。彼女も堪忍してくれたようで、ため息をつく音が聞こえた。
notyetDr「Dr_Kudoも、souyamisaki014も。どうやらわたしが関わったことが少なからず今のあの娘たちに影響を与えているみたいですから」
▷ 「そうなの?」
知ってるだろ、と言いたげな視線を感じる。──実際知っているのだが。
souyamisaki014を焚き付けたのは彼女だし、Dr_Kudoがこの学園に来たのも彼女がきっかけだ。それに何より、souyamisaki014とDr_Kudoを引き合わせたのも彼女の差し金。
notyetDr「それがこうして、新たな物語が生まれた。読みました? あれ。良いtaleでした。『未聞伝』も、『異聞伝』も……わたしがこの学園でやってきたことは、きっと、無駄じゃなかった」
いつも通りの無表情──に見えるが、違う。むしろ誇らしげでさえあった。
▷ 「そんなに?」
notyetDr「……はい。わたしの後輩があれを書いた。そう考えたら、ほら、ちょっとくらい誇りに思ってもいいでしょう?」
▷ 「──かもね」
その微妙な笑顔を見て、さて、souyamisakiが「恩を返す」だのと言っていたこととか、多分きみから見えている以上にDr_Kudoがsouyamisaki014にモーションかけてたとか、そんな話をしようかしまいかと、考えていた。
ともあれ。
この出来事が、ちょうど彼女たちが出会って12ヶ月の日に起きたことは、偶然の神様が祝福してくれていたのだと、思う。
【イベントストーリー報酬:『[未だ異なる2人の話] souyamisaki014&Dr_Kudo』を獲得しました!】
【souyamisaki014編、終了! イベントページに戻って他の著者娘のストーリーを見てみましょう!】